日本とトルコのIT産業における比較分析

こんにちは。 Biscoff (ビスコフ)です。
トルコ出身のソフトウェアエンジニアとして、日本のIT企業で開発業務に従事する中で、日々日本とトルコのIT業界の違いを実体験として感じてきました。本記事では、現場での開発経験を踏まえながら、両国のIT産業における技術的・文化的な違いについて考察します。
学生時代から社会人として働くようになるまで、トルコにおけるいくつかのITプロジェクトや開発業務に関わる中で、開発現場ではスピード感や実行力が重視される場面に多く触れてきました。要件が完全に固まっていない状態でも、まずは実装を進め、動かしながら改善していくという進め方が取られることもあり、エンジニアには状況に応じた判断や柔軟な対応が求められるケースが多かった印象です。その後、日本のITプロジェクトに関わるようになり、同じ技術を扱っていても、開発プロセスや意思決定の考え方に違いがあることに気づきました。
日本とトルコは、IT産業において異なる歴史的背景やビジネス文化を持ちながらも、現在では共通の技術を用いて類似した課題に取り組んでいます。しかし、その技術をどのように活用するか、どのようなプロセスで開発するか、そしてどの段階で本番環境(Production)へ移行するかという点において、両国には明確な違いが見られます。
本記事では、これまでの開発現場での経験を踏まえ、日本とトルコのIT産業について、ソフトウェア開発プロセスや技術スタックの選択、AIの活用方法、エンジニアリング文化といった観点から考察していきます。
ソフトウェア開発プロセスとプロジェクト管理
| 日本 | トルコ |
| 日本のITプロジェクトは、歴史的にウォーターフォール型の開発手法を基盤として発展してきました。近年ではアジャイル手法の導入も進んでおり、実務においては現在も以下のような特徴が見られます。 ・詳細な要件定義書の作成 ・多層的な承認プロセス ・十分な時間をかけた設計 ・計画フェーズ ・リリース頻度を抑えつつ、安定性と品質を重視した運用 特に金融、医療、公共分野などのミッションクリティカルなシステムにおいては、障害発生リスクを最小限に抑えることが最優先事項とされています。 | トルコでは Agile / Scrum を中心とした柔軟な開発スタイルが広く採用されています。 短いスプリントサイクル MVP(Minimum Viable Product)を重視 開発途中で要件が進化することを前提 頻繁なリリースと迅速な改善 このアプローチは市場投入までのスピードを高める一方で、技術的負債の管理が重要な課題となります。 |
日本の開発現場で実際に業務に携わる中で、仕様の曖昧さをできる限り排除し、事前に合意形成を丁寧に行う姿勢は、品質を維持・担保する上で合理的な考え方の一つではないかと感じています。
エンジニアリング文化:個人スキルとシステム志向の違い
| 日本 | トルコ |
| 日本のエンジニアリング現場では、役割や責任範囲が明確に定義されている点が特徴です。コードの所有権は個人ではなくチーム単位で管理されることが多く、ドキュメント整備や標準への準拠も重要な要素とされています。こうした環境では、個人の開発スピードよりも、長期的な運用の安定性や、組織としての知識蓄積・再現性が重視される傾向があります。 | トルコの開発現場では、個々のエンジニアの技術力や自律性が比較的重視される傾向があります。課題解決型で柔軟に対応できるエンジニアが多く、状況に応じて複数の役割を担うケースも一般的です。Backend、Frontend、DevOpsといった領域を横断的に担当することも珍しくなく、この柔軟性は、スタートアップや中小規模プロジェクトにおいて、スピード感と適応力という面で大きな強みとなっています。 |
技術スタックの選択とレガシーシステム
| 日本 | トルコ |
| 日本のIT現場では、長年にわたり安定稼働してきた技術基盤が現在も多くのシステムで活用されています。代表的な例として、比較的旧バージョンのJavaや、COBOLを基盤とした基幹系システム、オンプレミス環境などが挙げられます。 こうした技術選択の背景には、以下のような要因があります。 システム刷新に伴うリスクを慎重に評価する姿勢 長期間にわたる安定稼働実績を重視する文化 法規制やデータセキュリティ要件への高い対応水準 特に金融・公共分野などでは、最新技術の導入よりも、信頼性や継続性を優先した判断がなされるケースが多く見られます。 | トルコでは新しい技術やアーキテクチャの導入が比較的早く進む傾向があります。クラウドネイティブアーキテクチャやマイクロサービス構成、コンテナ技術およびDevOpsプラクティスなどが、実務レベルでも広く採用されています。 これにより、スケーラビリティや開発スピードを重視したモダンなシステム構築が進む一方で、システムの成長に伴う長期的な保守・運用設計の重要性も、より一層高まっています。 |
日本の開発現場では、「新しい技術を採用すること」よりも、「長期間にわたって安定して稼働し続けること」が優先される場面が多く、海外から来たエンジニアの立場として印象に残る点の一つだと感じています。
AIおよび業務自動化へのアプローチ
| 日本 | トルコ |
| 日本では、AI導入にあたって事前の検証や評価プロセスに十分な時間をかけるケースが多く見られます。特に業務への影響が大きい領域では、Human-in-the-loop(人による最終判断)を前提とした設計が重視される傾向があります。 導入前にPoCや検証フェーズを丁寧に実施 AIの判断結果に対する人の関与を明確に保持 意思決定プロセスの透明性や説明責任を重視 その結果、日本ではAIは完全な自動化を目的とした存在というよりも、業務の質や判断精度を高めるための支援ツールとして位置づけられることが多い印象です。 | トルコではAI技術を比較的早い段階から実運用に取り入れる動きが活発です。PoCやMVPを迅速に構築し、実際の業務やサービスの中で検証を進めていくアプローチが多く採られています。 PoCやMVPを短期間で構築 LLM(大規模言語モデル)を早期に本番環境へ適用 スタートアップを中心とした技術導入のスピード感 このような環境では、AIを活用した新しい価値創出が進みやすい一方で、運用フェーズにおける精度管理やガバナンス設計が重要なテーマとなるケースも少なくありません。 |
日本の企業でAI導入に関わる中で、「なぜこの判断をAIが行ったのか」を説明できることが、技術的な要件と同程度に重視されている場面が多いと感じています。
人材育成とスキル形成
| 日本 | トルコ |
| 日本では、長期的な視点に立った人材育成が重視される傾向があります。企業内での教育制度やOJTを通じて、時間をかけて専門性を高めていく文化が根付いています。 長期的な社内教育・育成制度 新卒採用を前提とした計画的な人材育成モデル 同一組織内で経験や知識を蓄積していくキャリア形成 こうした環境では、個人のスキルだけでなく、組織としての知見やノウハウの継続性が強みとなるケースが多く見られます。 | トルコでは個人主導の学習文化が比較的強く、エンジニア自身が主体的にスキルアップを図る傾向があります。 個人による継続的な学習・スキルアップ オンライン教育や技術コミュニティの活発な活用 グローバルプロジェクトへの参画経験が豊富 このような環境は、新しい技術やトレンドを素早く吸収しやすく、新技術の導入スピードに直接的な影響を与える要因となっています。 |
日本で働く外国人エンジニアとして、このような長期的な育成モデルは、技術力の向上にとどまらず、組織や業務の進め方への理解を深める上でも、一定の意義があるのではないかと感じています。
日本の高いプロセス管理能力と、トルコの迅速かつ柔軟な開発力は、グローバルなITプロジェクトにおいて相互に補完し合う関係にあります。日本とトルコ、両方の開発現場を経験してきた立場から見ると、それぞれのアプローチには、単なる手法の違いではなく、背景となる文化や価値観に根ざした明確な強みがあると感じています。
日本とトルコのIT産業は、異なるアプローチを取りながらも、最終的には同じ技術的ゴールを目指していると思います。
まとめ
日本の安定性や品質を重視する開発文化と、トルコのスピードや適応力を適切に組み合わせることができれば、より競争力のあるITソリューションにつながる可能性があるのではないでしょうか。
今後、グローバルな開発体制がさらに一般化していく中で、こうした両国の特性を活かしたハイブリッド型の開発モデルは、国際的なITプロジェクトにおいて、一つの有効な選択肢として検討されていくのではないかと考えています。
こうした開発スタイルの違いや強みは、考え方次第で大きな武器になります。
以前であれば実現が難しかったことも、今ではAIが強力なサポートツールとして機能する時代になりました。
重要なのは、AIを「とりあえず使う」のではなく、業務や開発フローに合わせて正しく活用しているかどうかだと感じています。
私自身、それがこれからのIT業界で生き残っていくための一つの手段だと考えています。
弊社では、日本と海外の開発文化の違いを理解した上で、AI活用を含めた開発体制づくりや技術導入のサポートを行っています。「自社でも取り入れてみたい」「まずは話だけ聞いてみたい」という方も、お気軽にご相談ください。








